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島根の珈琲 第二弾

 カフェ文化の聖地のカフェ

 

 「個人経営者が支えるカフェ文化の聖地」と言われているのが島根県である。だからこそ、スターバックスが来年3月下旬に、JR松江駅構内の商業施設シャミネ松江店に出店することになった時、物議をかもしたのだろう。

 個人経営のカフェと島根県で言えば、バリスタチャンピオンシップ大会で3度の日本大会優勝、シアトル世界大会では準優勝に輝く門脇洋之氏と同じく日本大会で準優勝の経験がある実弟の門脇裕二氏の両名が経営する「CAFÉ ROSSO beans store+café(カフェロッソ ビーンズストア+カフェ)」であるとカフェ通が教えてくれた。

 門脇兄弟の父である門脇美巳氏は1967年に自家焙煎珈琲店を開業していることから、親子2代にわたってコーヒーを究めている。

 そしてこの門脇兄弟や門脇ファミリーの存在に影響を受けて、日本全国から若者が集まり、カフェを開業しているという。

 

 のどごしのいいカプチーノ

 

 「CAFÉ ROSSO beans store+café」は、島根県安来市郊外の中海沿いに位置する。訪れた日が平日午後2時頃にも拘らず、店内はほぼ満席状態。年配の女性の方が集団で、カプチーノの絵柄を携帯で写しては感嘆の声をあげていた。一方、一人でゆっくりとコーヒーを味わう人、カップルでコーヒーを片手に会話を楽しんでいる様子などが見受けられた。水辺に面した店内は、開放感あふれる雰囲気。

コーヒーは丁寧にハンドピックを行った自家焙煎の豆を使用。私はカプチーノとパニーニを頼んだ。注文方法は、前払い制。カプチーノができあがるまで、店内に併設してあるビーンズショップコーナーや外にある焙煎室を眺めたりする。

一口飲んでそのカプチーノのまろやかさに驚いた。実は私はカプチーノが苦手。ノドにささるというか、いがらっぽさが残るというか、そんな感触が嫌いで、あまり積極的には飲まなかった。そしてカプチーノはそういうものだろうと思っていた。

 ところがここのカプチーノは違ったのだ。まろやかというか、ノドごしがすごくいい。何杯でも飲める柔らかさがある。特にコーヒーの味に詳しいわけではないけど、この優しいノドごしに私は、いっぺんでファンになってしまった。私が島根県で住んでいるところからは高速道路を経て、車で1時間半以上はかかる。しかし、それでも「CAFÉ ROSSO」のコーヒーをわざわざ飲みにきたい、と思わせるそんな味だった。

 

 地元の人が勧める珈琲館

 

 「S.O.S IRAQ」といった国連イベントなどの世界舞台にも登場し、ダイアナ妃も愛したカフェ・カリアーリ。このカリアーリのコーヒーはバールやレストランのみならず、EU統合を記念したレストラン「Europa92」でも使用された。

 1998年の長野オリンピックでは、イタリア・チームのオフィシャル・コーヒーとして選ばれてもいる。

 営利主義を好まないイタリアの老舗「カフェ・カリアーリ」。カフェ・カリアーリ社は、1909年にアムブロジオ・カリアーリがイタリアのエミリア=ロマーニャ州モデナ県で創業した。創業者は、ブラジルに長期間滞在。そこでコーヒーの焙煎の秘訣や技術を習得したという。カフェ・カリアーリ社の特徴は、伝統を重んじ、一切の妥協をしないこと。「食」「芸術」「伝統」の街、モデナの名を汚さないという使命の下、そのカリアーリ本部が、唯一日本で営業を認めた場所が島根県にある。世界遺産にも認定された石見銀山の人口数百人の小さな集落である大森町がその場所だ。

 古き良き日本家屋をそのまま利用した店内。メニューはコーヒーのみ。話し好きの店長がカリアーリコーヒーの特徴や出店の経緯などを話してくれる。店長と話をしながら畳に座り、行き交う人を見ながらコーヒーを楽しむ。

 コーヒーしかメニューにはないため、食べ物などの持ち込みも可能とのこと。

本やパソコンを持参し、店長とおしゃべりをしたり、本を読んだり、たまに仕事をしたり……、何時間いても飽きない空間となっている。ここも「わざわざ行きたい」……、そんなカフェだ。

 

 お店の味が家でも可能

 

 豆が新鮮な証拠でもある泡立ちのいいコーヒーは、酸味や雑味がなく、コーヒーのコクがしっかりと感じられる味。一口飲んで「おいしい」と思わず言ってしまったほど。

 豆をひいたものや豆そのものも販売している。私はこれだけおいしいと入れるにも手間がかかるのではと、自宅用に購入するのを躊躇していると、「蒸らしも必要ないし、気軽に入れられます」と店長。さっそく購入して自宅でもいれてみると、確かに店長の言う通り。自宅でいれてもお店と変わらない味が出せるというのは稀有であろう。

 裏メニューにエスプレッソもある。カフェ・カリアーリに連れて行ってくれた人は、エスプレッソを2杯もおかわり。「すごいコーヒー」が気軽に飲める。

 

『四季の珈琲』2012 vol.35