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オーストラリアのカフェ事情 〜シドニーにおけるコーヒーシーンを中心に〜

「シドニーの朝はカフェから始まる」と言われるほど、

早朝からオープンしている多くのカフェを見かける。

中心部であれ郊外であれ、おいしいコーヒーが飲めるカフェがたくさんある。

「シドニーに来て、コーヒーを飲むようになった」と言う日本人も少なくない。

今回はシドニーを中心に、カフェ事情を紹介していく。

*本文中の通貨換算:1豪ドル=79円(2016年5月7日現在) 

 

 

  

 コーヒー文化が根付いた経緯

 

 本誌40号でオーストラリアのコーヒー文化が発展したのは1990年代後半から2000年代初期とされていると記した。今号ではオーストラリアでコーヒー文化が根付いていった経緯を紹介してみたい。

 

 独立系カフェが圧倒的多数

 

 オーストラリア全土には6701店舗のカフェがある(2015年4月現在)。働いている人数は、8万6423人。収益は40億豪ドル。年間成長率は3・2%(2010年〜2015年)。オーストラリアのカフェ経営の特徴は、何と言っても家族や個人で経営する独立系カフェが圧倒的に多いことが挙げられる。

 

 6701店舗のうち95%が独立系カフェだ。オーストラリアのカフェ・チェーン店で5%以上を占めているチェーン店はないのが現状だ。

 

 さまざまな要因で広がるカフェ文化

 

 近年カフェの数はますます増加している。カフェがオーストラリアの人々の生活に受け入れられるようになった理由を調べていくと、さまざまな要因が重なっていることがわかる。

 

 まず、1998年から毎年行われている「ロックス・アロマ・フェスティバル(Rocks Aroma Festival)でコーヒーの知識が多くの人々にシェアされていることが大きな要因の一つであるという意見がある。さらに、2000年に開催されたシドニーオリンピックをきっかけに、それまで禁止されていたオープンテラス席の営業の許可が政府からおりたことも要因とも。これにより、天気の良い日や休日などに外でコーヒーを楽しみながら過ごすというライフスタイルが定着したからだ。

 

 コーヒーをサービスする技術を競って毎年行われているのが「世界バリスタ大会(World Barista Championship:略称WBC)」だ。そこで2003年に、オーストラリア・シドニー出身のポール・バセットさんが最年少で優勝したことも、人々のコーヒーへの関心を引きつけるきっかけになったようだ。ちなみに2014年の世界バリスタ大会では日本人の井崎英典氏が優勝を果たしている。

 

 さらに、『ビーン・シーン(BeanScene)』などのコーヒー専門誌が発刊され、『ホスピタリティ・マガジン(Hospitality Magazine)』、『クレマ・ザ・カフェ・ライフスタイル・マガジン(crema The cafe lifestyle magazine)』、『カフェ・カルチャー(CAFE culture.)』などのインターネット専門サイトが開設されている。またコーヒー愛好家のためのフォーラムである『コーヒー・スノッブズ(COFFEE SNOBS)』がネット上で展開されるようにもなる。『タイムアウト(TimeOut)』などをはじめとする情報ニュースサイトでもカフェに関する多くのレビューが投稿され、リアルタイムな情報交換が頻繁になされている。

 

 加えて、カフェを評価したガイドブックの登場も見逃せまない。シドニーのローカル紙を発行するシドニー・モーニング・ヘラルド(The Sydney Morning Herald)社が、年に1度『グッド・カフェ・ガイド(Good Café Guide)』を出版している。この本では、最大3個のカップの数でお店を評価している。また、その年の最も優秀なカフェやニューカフェ、コーヒー、バリスタなどを発表しているのも見逃せない。ちなみに2012年には日本人のバリスタ佐々昌二氏がベストバリスタに選ばれた。

 

 『ザ・コーヒー・ガイド(the coffee guide)』というガイドブックも発行されている。このガイドブックにはシドニー版とメルボルン版がある。2005年に発行されて以来、現在まで6回版を重ねてきた。こちらは5つの豆の数でお店を評価している。

 

 バリスタ養成に力を入れる

 

 カフェには「バリスタ」と呼ばれる、客から注文を受け、コーヒーを淹れる専門の人がいる。オーストラリアのコーヒーの作り方が学べるバリスタ養成のための教育コースを、各コーヒー会社やカフェ、コーヒーの専門学校などが行っている。またオーストラリア政府の教育省管轄のバリスタの学校もあり、オーストラリアにはバリスタの国家資格もある。

 

 ちなみにバリスタ養成コースには1日で学べるものもあり、観光客にも人気となっている。

 また、コーヒーの専門家による専門協会「オーストラリア・スペシャルティ・コーヒー協会(Australian Specialty Coffee Association:略称ASKA)」も発足。コーヒーの質の向上、バリスタの養成、コーヒーの素晴らしさを伝えることを目的に活動している。ほかにも「オーストラリア・コーヒー・トレーダーズ協会(AUSTRALIAN COFFEE TRADERS ASSOCIATION INC)」などもある。 バリスタ大会だけでなく、さまざまなコーヒー関連のイベントも年間を通じて開催されている。

 

 毎年コンスタントに行われる規模が大きなイベントもある。「ロックス・アロマ・フェスティバル」は、シドニーの観光名所ロックス(Rocks)で7月の日曜日に行われる毎年開催。メルボルンでも毎年5月に、「メルボルン国際コーヒー・エキスポ(Melbourne International Coffee Expo:略称MICE)」が開催されている。このエキスポは、オーストラリア最大のコーヒーイベントとされている。

 

 カフェに関するさまざまな情報を入手できるこうしたイベントに加え、これからカフェを始めたいという人にとって便利なのが、カフェ用の店舗などを売り買いできるインターネット・サイトの充実だ。

 

 こうしたサイトでは、現在運営しているが買い手を探しているカフェ、閉店してしまい店舗の買い手を探しているカフェの情報などが多数掲載されており、誰もが気軽に閲覧できるようになっている。

 

 このようにさまざまな方向から、オーストラリアのカフェ文化が支えられ、発展していることがわかる。

 

 

オーストラリアのコーヒーの種類

『四季の珈琲』2016 vol.42